持株会社が厳格な投資家に 同社には宮崎輝氏という高度成長期からバブル崩壊までトップとして実権を握っていた傑出した経営者がいました。
社長、会長を三十七年間務め、多角化を推し進めた立役者です。
よく「健全な赤字を持て」と言っていました。
つまり新規事業は将来楽しみですが、どうしても初めは赤字です。
企業が長期的に成長を図るには、この赤字は健全なものとして新規事業に挑戦すべきだという意味です。
なるほど、その通りですが、次第に曲解されて新規事業なのだから、赤字は仕方がないと言い訳に使われるように変わってしまいました。
このほか宮崎氏のモットーには、拡大至上主義、撤収敗北主義、残存者利益確保の三つがありました。
初めに規模拡大ありきで、儲かるまであきらめずに頑張る。
他が撤退するまで粘って残れば利益が出るようになる。
これは高度成長期であれば正解ですが、今や必ずしもそうとは言兄ません。
ことに残存者利益を狙うのは危険です。
変化が激しく商品そのものの寿命が短くなったので、ラッキョの皮むきのように最後に何も残らず、撤退を遅らせただけ損失を大きくする恐れがあるからです。
赤字部門への利益補填を続ければ、成長部門への投資資金を細らせ、共倒れになるかもしれません。
相互もたれ合いの共同体型経営はもはや持続可能性は著しく乏しくなっているのです。
持株会社と七社の事業分社に変わって、「幹部の緊張感がまるで違う」と持株会社のAホールディングスのS社長は言います。
カンパニー制の時も貸借対照表をそれぞれ作らせて利益責任を負わせましたが、「実態はA社の中の一部分という意識を拭い去れなかった」(S社長)。
現在は、持株会社の承認を得なければならないにしても、設備投資は第一義的に各事業分社の判断に任されています。
従って意思決定のスピードは速まりました。
持株会社は投資家の目で各社を評価し業績停滞が長引くようなことがあれば、果断に処置する方針です。
社員の賃金については当面、共通の体系を維持しますが、ボーナスは業績に連動させます。
また「将来はそれぞれの会社の実態に合わせて賃金制度を変えていく」とS社長は構想を語っています。
純粋持株会社は戦後、財閥の復活を防ぎ独占企業が生まれるのを阻止するために禁止されました。
解禁されたのは一九九八年一月で、国際競争に対応して企業の事業再編成をしやすくするためでした。
二社が合併する場合、持株会社を作ってそれぞれ事業会社としてその下に入る形になれば、労働条件や社風を擦り合わせる必要がなくなります。
特に、多くの企業は″ムラ社会″的な風土なので、合併に当たって相性の良しあしが障害になります。
それぞれ独特のタテ社会を作っており、上下関係が密接なので余計に融合しにくいのです。
持株会社制度を利用すれば、それぞれ事業子会社として自己完結型の組織として存続できるので便利です。
C社とM社が一緒になって生まれたCホールディングスは持株会社制度を用いた例です。
しかし持株会社組織になっても、甘い事業評価を続ければ仏作って魂入れずです。
持株会社が傘下の事業子会社の将来性を把握して、常に最適のポートフォリオを組むように努力しなければなりません。
長期的に見て企業価値を高めていくのに、不要と判断した子会社は売却するか解散するかいずれかの措置をとらないと、持株会社組織にする意味がないからです。
同じ釜の飯を食った仲間をよそにやるわけに行かないという考え方はブレーキになります。
米国企業はこの点については割り切っています。
代表例はジャ。
W氏が最高経営責任者(CEO)兼会長時代にG社が実施した文字通りのリストラクチャリング(事業の再構築)でした。
世界で一位または二位の事業に経営資源を集中するという方針の下に、一九八一年にウェルチ氏はトップになるや事業の組み換えを実行しました。
エアコン、テレビ、鉱業部門などの総額百億ドルを超える事業を売却し、逆にNBCテレビ、投資銀行、照明器具関係などを買収しました。
事業売却の大義名分は、Gグループにとどまっていても業界内で上位をうかがえる可能性がなければ、売却によって有望な企業に吸収された方が、働く人たちにとってはやりがいがあるだろうというものでした。
人員の削減も激しく、建物を残して人を消し去るという意味で中性子爆弾にたとえられて「ニュートロン‐ジャック」という異名をとりました。
このようなリストラはG社が経営不振に陥ったために始めたわけではありませんでした。
むしろ当時も優良企業でした。
このままいけば利益率が必ず低下するとの判断に基づいて実施したのです。
これに刺激を受けて日本でも多くの経営者が「選択と集中」の必要性を語り、リストラを始めましたが、G社ほどドラスチックにはできません。
しかしG社のやり方をそっくり真似ればよいとは言えないと思います。
G社は収益構造が製造業中心からサービス・金融中心に変わりました。
それによって高収益を上げて株価を高め時価総額ナンバーワンの座を維持した点は立派なものですが、発明家トーマスーエジソンによる創業以来のもの作りの伝統、理念はどこへ行ったのでしょうか。
今までのような共同体はいけませんが、もしニュートロン‐ジャックばりの人員削減をやったら、日本の企業では社員の求心力を失う恐れもあります。
手術は成功したが患者は死んだということにもなりかねません。
従来の雇用慣行を否定した途端、社員が退社していくケースがよく見られます。
例えば銀行はかつて偏差値の高い学生が大挙して入り、定着率もよかったのですが、最近は人気が急落です。
米国の名門大学のビジネススクールに留学中の大手都銀の行員から「私は経営をしたいのだが、今の銀行では展望が開けないので辞めることにした」という話を直接聞かされたことがあります。
大手企業で希望退職を募ると予定数を大幅に上回る現象が最近しばしば見られます。
社員の心理的な会社離れは密かに進んでいます。
市場志向の経営を実行して共同体的体質を破壊したら、それに代わる新しい求心力を構築しなければなりません。
それは仕事を軸にしたものでしょう。
A社ホールディングスの蛭田社長はこう考えています。
これからは大会社は安定しているからいいというような帰属意識はなくなっていく。
若い人たちは、挑戦的な仕事ができる活力ある集団に参加したいと考えるように変わってきている。
そのような場をどれだけ用意できるかは経営者の責任だ。
チームワークは今後も大切で、新しい帰属意識を創っていかなければならない」 一人ひとりに成果を求める今、社員の気持ちを結集するには明快な「ビジョン」を掲げ、それを具体化する説得力のある戦略を示すことが重要です。
細々と指示することでもなければ、一糸乱れず集団行動をとらせることでもありません。
実際に仕事を仕上げるのは個々の社員の創意です。
希望退職、工場閉鎖などのリストラの後、どう前向きな経営に転じるか、音響機器メーカーのK社の河原春郎社長は「アジアに勝てる工場をつくろう」という野心的な目標を立てて引っ張っています。
二〇〇三年九月、携帯電話の製造から撤退したY県K社は国内向けの携帯MD(ミニーディスク)プレーヤーの生産を始めました。
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