体の隅々にまで行きわたって栄養を与える重要な役割を持っており、もし血液がうまく流れなくなったら、たちまちその部分が病気になってしまうのが、経済におけるお金の役割にそっくりだからだ。
人間の健康と血液の流れとについて考える時に、まず調べるのが血圧だが、経済においてこの血圧検査の役割を果たすのが、国内で出回っているお金の量を示すマネーサプライ(通貨供給量)だ。
日本銀行が毎月速報ベースと、遅れて確報ベースの統計を発表している。
血圧が低ければ、全身に十分に血液が回らずに貧血を起こしてしまうように、マネーサプライが少ないと、経済活動の隅々にまでお金が回らず、経済が元気をなくしてしまう心配がある。
これと反対に、血圧が一局すぎれば脳溢血などの病気が心配されるように、マネーサプライの伸びが大きすぎると、インフレという経済の病気を引き起こすおそれがある。
経済の基本、それに見合った範囲内でのマネーサプライの増大は問題ないし、むしろ必要である。
しかし、それを上回る規模でマネーサプライが急増した場合は、お金がだぶついてしまう過剰流動性を引き起こし、一定の時間のズレを伴って物価上昇が起こる、というのがF氏の主張だ。
F氏の考えを証明するような出来事が、実際に日本で起こった。
一九七一年末の日本のマネーサプライの伸びは、前年比二四・○%、七二年には同二五・一%になった。
同年十一月には二八・五%という空前の伸びを記録している。
もちろん、経済成長率はそれほど高くはなく、明らかに過剰流動性の状態になっていた。
その原因は、金融機関の企業への資金の貸しすぎと、円高ドル安が進む。
東京外国為替市マネーサプライと物価の関係とは、マネーサプライが経済の動きと密接に関係があると、いち早く指摘したのは米国シカゴ大学の教授だったM・F氏だ。
国内に出回っている商品の数が同じだった場合、物価が上がれば、金額表示がかさむ分、通貨供給量も増えることになる。
たとえば、五○円の商品が一○個あった場合に、全部を買った時に使うお金は五○○円だが、五五円に値上がりした場合は五五○円必要になるのと同じ理屈だ。
物価の上昇がマネーサプライの増大に結びつくということは、逆の見方をすれば、マネーサプライが増えれば物価も上昇するということになる。
もちろん、経済は成長している場で、日銀がドルを買い支えるために大量の円を市場に供給したことにあると見られた。
その後、物価は七三年ごろから急に上昇を始め、第一次石油ショックも加わって、消費者物価の上昇率は七三年から七五年にかけて二ケタ上昇を記録するという、いわゆる〃狂乱物価〃を招いたのである。
その責任の一端は、マネーサプライの伸びが顕著になっていたのにそれを軽視し、早めに適切な対応策をとらなかった日銀にあると指摘された。
以後、日銀はマネーサプライを、以前にもまして重要視するようになった。
単なる物価の先行指標としての役割ばかりではなく、適切な水準に保つことで将来のインフレをある程度防げるという、積極的な役割を評価したからだ。
一口に国内で出回っているお金の量といっても、それを的確に把握するのはむずかしい。
最もわかりやすいのは、日頃使っているお札や硬貨の現金だが、これも預金や貯金に姿を変えてしまったり、国債や株に化けてしまうこともある。
企業の取引では、手形や小切手を使用するのが一般的だ。
こうした金融資産も細かく把握しないと、お金の量はつかみ切れないことになるが、どこまで把握するかの線引きがむずかしい。
日銀では毎月、全国の金融機関から提出される預金や現金の出入りの記録をもとに、いくつかのマネーサプライの指標を計算している。
その中でも、最も重要視されているのが、かつてのマネーサプライの有効性に、大きな変化が起こっている、といわれる。
その一つは、一九八七年から九○年にかけてのいわゆるバブルの時代に、マネーサプライは二ケタ前後の高い伸びを記録し続けたにもかかわらず、消費者物価や卸売物価はきわめて安定した動きを示したことだ。
その原因としては、為替市場での円高が進み、輸入品の物価が下がったことと、だぶついたお金が株や土地といった限られた分野に集中したこと、などがあげられている。
もう一つは、郵便貯金の人気の上昇で、一般預金者のお金が、銀行の預金から郵便局の貯金に大量にシフトしたことだ。
それまで重要視されてきたこの指標には郵便貯金は含まれなかったことから、マネーサプライは、これまでその活動を忠実砲と呼ばれる指標だ。
現金に、普通預金や当座預金などの要求払い預金、定期性預金を加えたもの。
この指標には、金融資産の半分以上が含まれると見られるうえ、集計がしやすいので重宝されている。
さらに、外資系金融機関が日本に参入することが多くなったことを受けて、一九九九年四月からは外国銀行の在日支店や外資系信託銀行、それに全国信用金庫連合会、労働金庫連合会なども新たに集計対象に加えられた。
ちなみに、先にあげた、〃狂乱物価〃のころのマネーサプライの数字は、まだCDが登場していなかったので、肌だけの数字だ。
ところが最近、こうした物価の監視役としに反映していた経済活動の推移とは直接関係のない要因で急低下することになった。
そこで「肌十CD」をただちに物価の先行指標と見なすのは慎重さに欠ける、との指摘がなされたりした。
日銀でも、九二年七月の統計から、「肌十CD」に郵便貯金や、農協、漁協などへの貯金、国債、投資信託なども加えた「広義流動性」の指標を、これまでの指標とともに公表するようになり、マネーサプライがより広い意味でとらえられるよう工夫をしている。
九九年四月からは、金融機関が発行するコマシャルペパ(CP)を集計対象に加えるなど、時代の変化や新しい動きに対応できるよう改良も続けられている。
なお九○年代後半にも、日銀は大量の資金を市場にばらまいたが、やはり大半が債券投資などに流れ、物価は安定的に推移した。
こうしたことから最近では、短期的なマネーサプライの動きのみから物価や経済の状況を判断するのは適当とはいえない、との見方が多くなっている。
マネーサプライの伸びは、ほかの経済指標に先駆けて景気の現状を表すといわれる。
九七年に伸び率が三・一%と、五年ぶりに前年を下回ったが、これは政府が消費税率の引き上げや減税打ち切りなど、九兆円もの国民負担増を断行した結果、景気が失速したことを反映したとされた。
また、銀行経営の健全化をめざして「早期是正措置」が導入されるなど、お金の供給源である銀行をめぐる環境が大きく変わり、銀が信用乗数だ。
信用乗数はバブル当時の九○年秋には一三倍を超えていた。
それが九四年ごろから低落傾向が顕著となり、九九年八月には一○・三倍にまで落ち込んだ。
日銀がマネーサプライをコントロールしようとしても、お金の仲介役である銀行の信用創造機能が十分に働かないのでは、効果を上げることがむずかしくなる。
金融の自由化により銀行の在り方自体が大きく変化しているうえ、金融商品も多様化するなど、お金の流れがますます複雑になる中で、お金の動きをどう把握し、経済や景気の動きとの関連性を探り当てていくか。
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